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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)57号 判決 1982年5月25日

原告 佐藤政太郎

右訴訟代理人弁理士 杉林信義

同 落合健

被告 特許庁長官島田春樹

右指定代理人通商産業技官 戸田利雄

<ほか一名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和五五年審判第六七〇二号事件について昭和五六年一月一三日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四八年四月一〇日、名称を「足場パイプ取付金具」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(実願昭四八―四三一〇二号)をし、昭和四九年一二月一〇日、出願公開(実開昭四九―一四三一三九号)され、昭和五〇年一月六日、出願審査の請求をしたところ、昭和五一年九月一〇日拒絶理由の通知があったので、原告は、同年一一月九日付の手続補正書及び意見書を提出し、昭和五二年四月五日に出願公告(実公昭五二―一五〇六九号)がされたが、実用新案登録異議の申立があって、昭和五五年二月一二日、拒絶査定がされた。

そこで、原告は、同年四月二三日、審判を請求し、昭和五五年審判第六七〇二号事件として審理された結果、昭和五六年一月一三日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は同月二九日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

両側に半円状の側板2を曲設し、上端にコ状のボルト支持枠3を形成した型状の受台1の両側板2下端に押板連結杆8を貫通附設し、両側に押縁5を曲設し、かつ、上端にボルト挾持溝7を有するボルト挾持頭6を突設してなる弧状の押板4の下端を、前記押板連結杆8に巻着すると共に、ボルト支持枠3内にボルト10の基部を挿入し、該ボルト支持枠及びボルト基部を貫通しボルト連結杆9を附設してなる足場パイプ取付金具において、側板2と押縁5の曲率を二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値となすと共に、ボルト10の後半部を適当に彎曲せしめたことを特徴とする構造。

(別紙図面(一)参照)

3  審決の理由の要旨

(一) 本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(二) 意匠登録第三一七一五八号意匠公報(以下「引用例」という。)には、「両側に半円状の側板を曲設し、上端にコ状のボルト支持枠を形成した型状の受台の両側板下端に押板連結杆を貫通附設し、両側に押縁を曲設し、かつ、上端にボルト挾持溝を有するボルト挾持頭を突設してなる弧状の押板の下端を、前記押板連結杆に巻着すると共に、ボルト支持枠内にボルトの基部を挿入し、該ボルト支持枠及びボルト基部を貫通しボルト連結杆を附設し、側板と押縁の曲率をパイプ円周曲率とすると共に、ボルトの後半部を適当に彎曲した足場パイプ取付金具」が記載されている。

そこで、本願考案と引用例に記載の考案とを比較すると、両者は、側板と押縁の曲率に関し、本願考案が二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値と限定したのに対し、引用例のものが鉄パイプの円周曲率とする点で、一応構成上の相違があるが、その余の構成については、一致している。

しかし、二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値とは、例えば大径の鉄パイプと小径の鉄パイプの中間の径の鉄パイプ円周曲率を意味し、二種類の各鉄パイプが特定されない以上、「中間値」なる表現に技術的意義は認められないから、「二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値」も、結局、技術的にみて、単に「鉄パイプ円周曲率」と把握される。

したがって、本願考案は、引用例に記載の考案と同一である。そして、引用例がこの出願前頒布されたものであることは、その記載より明らかである。本願考案は、実用新案法第三条第一項第三号の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取消すべき事由

審決は、次の点の認定及び判断を誤り、この誤った前提に立って本願考案を引用例記載の考案と同一であるとした違法のものであるから、取消されるべきである。

(一) 引用例に次の事項が記載されているものと誤って認定した点

(イ) 「両側板下端に押板連結杆を貫通附設し」と認定しているが、押板連結杆が貫通附設されていることは引用例に開示されていない。

(ロ) 「上端にボルト挾持溝を有するボルト挾持頭を突設してなる」と認定しているが、引用例には「ボルト挾持溝」は開示されていない。

(ハ) 「押板の下端を、前記押板連結杆に巻着すると共に」と認定しているが、「巻着」されていることは引用例には開示されていない。

(ニ) 「該ボルト支持枠及びボルト基部を貫通しボルト連結杆を附設し」と認定したが、引用例には「貫通附設」されていることは開示されていない。

被告は、以上の各点は引用例に開示されている旨主張するが、引用例は、意匠公報であって、足場パイプ取付金具なる物品の形状が表わす外観の装飾美が表現されているとみるべきであるから、引用例には、被告主張のごとき公知技術の公開はおろか教示すらされていない。

(二) 「二種類の各鉄パイプが特定されない以上、『中間値』なる表現に技術的意義は認められない。」とした点

(1) 本願考案の明細書二頁八行ないし一一行に記載したように、従来より、足場パイプの分野においては、足場用鉄パイプの外径の大きさは、規格化されており、この規格化された足場用鉄パイプの外径の大きさとしては、四二・七ミリメートルと四八・六ミリメートルの二種類しかない。そして、実際上、これら二種類の規格径を持つ足場用鉄パイプを使用して足場を組立てない限り、安全性が確保されないばかりでなく、部品の調達が不可能でもあることから、足場パイプの分野における当業者にとっては、「二種類の鉄パイプ」とは、当然、規格化された二種類の鉄パイプ、すなわち、四二・七ミリメートル外径の鉄パイプ及び四八・六ミリメートル外径の鉄パイプを指すことが明らかである。

したがって、「二種類の鉄パイプ」が特定されないとした審決の判断は明らかに誤りである。

そして、本願考案において「中間値」とは、外径が四二・七ミリメートルと四八・六ミリメートルの二種類の規格径の中間の外径を持つ足場用鉄パイプの外周面の曲率、すなわち、本願考案の明細書五頁三行ないし八行に記載されているように四五・六五ミリメートル外径の足場用鉄パイプの外周面の曲率をいうものである。

本願考案においては、足場パイプ取付金具の側板と押縁の曲率を規格化された二種類の足場用鉄パイプの円周曲率の中間値としたことにより、鉄パイプと取付金具との間の接触面の長さを、安全性を確保する上で最低限必要とされる長さ以上に保ちつつ、取付金具を四二・七ミリメートル外径の鉄パイプにも、また四八・六ミリメートル外径の鉄パイプにも共用することが可能となり、その結果、取付金具の製造、保管、使用操作の面で、大いに時間や労力の節減を図ることができるのである。

このような技術上の絶大な効果を無視して、審決がその理由において「『中間値』なる表現に技術的意義は認められない」としたのは、極めて不当である。

(2) 原則的には、考案の技術的範囲は、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないが、一般に実用新案登録請求の範囲の記載が十分であることは少なく、その解釈にあたって疑義を生じることがある。このような場合には、実用新案登録請求の範囲のみならず、考案の詳細な説明あるいは図面をも参酌して、その解釈、確定がされるべきである。

この立場からすると、実用新案登録請求の範囲に数値の限定はないにしても、「側板と押縁の曲率を二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値となす」と記載され、その「中間値」とは、二種類の鉄パイプ円周曲率により特定されたものであり、かつ、そのパイプの径は、明細書の記載から四二・七ミリメートルと四八・六ミリメートルの二種類の中間値である四五・六五ミリメートルとする構成のものであることが明らかであるから、被告の主張するように、実用新案登録請求の範囲に鉄パイプの径の数値限定がないからといって、直ちに二種類の各鉄パイプの径が特定されていないとするのは誤りである。

被告は、工業製品に関する規格は不変のものでも、また、世界各国において同一の規格が適用されているものでもない、と主張するが、一般に、工業規格に基づいて考案がされ、その考案について実用新案権が確立すれば、その権利は、その規格が存在する限り適切な行使にたえ、もしその規格がなくなれば、その権利が行使に適しなくなるだけであり、その権利の有効性について何ら問題が生ずるものではない。しかも、実用新案権自体有限のものである。また、本願考案は、日本国内の規格に基づいてされたもので、世界各国の規格とは関係がない。

足場パイプの分野においては、足場用鉄パイプの外径の大きさは、従来より長年にわたり、前記の二種類に規格化されており、本願考案は、かかる規格に基づいてされ、明細書記載のとおりの独特の作用効果を奏するものである。したがって、「規格自体に意味は認められない。」とする被告の主張は誤りであり、かつ、「中間値」という表現に技術的意義が存することも明らかである。

二  被告の答弁及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は、認める。

2  同4の取消事由についての主張は、争う。

審決の判断は、正当であり、以下述べるとおり、審決には原告主張のような違法はない。

(取消事由(一)について)

引用例は、意匠公報ではあるが、対象とする物品が建築足場用締付金具であることを前提として、当業者がみれば、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各点は、以下のとおり、引用例に開示されている。

(イ)の点

押板連結杆は、その正面図、右側面図、平面図とその機能を勘案すれば、貫通しているものと解することができる。

(ロ)の点

ボルト挾持溝は、平面図においてボルトとボルト挾持頭との間に間隙があること、右側面図においてボルトがボルト挾持頭中に嵌入していることからみて、開示されていることが明らかである。

(ハ)の点

弧状の押板の下端の取付態様は、押板連結杆がその回動軸であることを勘案して正面図、右側面図をみれば、巻着されていると解するのが当業者にとって常識的である。

(ニ)の点

平面図、A―A断面図で、ボルト基部とボルト支持枠間に少しばかりの間隙があって、一本の軸杆が挿通されていることが、その間隙より明瞭であること、更に、右側面図をも加えてみれば、ボルト連結杆は、ボルト支持枠とボルト基部を貫通したものであることが明らかである。

以上のとおり、当業者がみれば、引用例は、審決中で認定したとおりに理解できるのであり、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)において指摘した事項は引用例に開示されていないとする原告の主張は、不当であり、審決には、原告主張のような違法はない。

(取消事由(二)について)

実用新案登録請求の範囲の項の記載は、考案の構成に欠くことのできない事項のみの記載であると解すべきことは、実用新案法第五条第四項の規定より当然であり、この点より、考案の要旨の把握は実用新案登録請求の範囲の記載に基づいてすべきであって、考案の構成が、たとえ考案の詳細な説明の項中で特定されていたとしても、該構成の特定が実用新案登録請求の範囲中でされていない場合は、考案の要旨は、該構成の特定されていないものとして、把握されるのである。

以上述べたとおり、明細書の記載から考案の要旨を把握するに際しての基本的な考え方を前提として、本願考案の明細書の記載をみるに、その実用新案登録請求の範囲の項中の記載をみても、二種類の鉄パイプの径に関しての数値限定はどこにもない。ただ、その記載から足場パイプを対象とするものであることは理解できるが、足場パイプと称しても、枠組み足場パイプ、単管足場パイプ等パイプの外径一つをとっても種々のものがあり、どの足場パイプのどの規格品かが特定されない以上、径が特定されたとは認められない(工業製品に関する規格は、技術の進歩その他社会的条件等により、必要に応じて、人為的に適宜変更されるものであって、不変のものではなく、また、世界各国において同一の規格が採用されているものでもない。したがって、規格の対象とする数値自体は、数値として、時代、地域を越えた絶対的意味を有するが、規格自体には絶対的意味は認められない。)。

それゆえ、二種類の鉄パイプの径に関して、考案の詳細な説明中で具体例について説明されてはいるが、実用新案登録請求の範囲の記載が、それらの具体例をも包含するより上位の概念の表現をとっている本願考案の明細書の記載においては、その考案の構成要件としての二種類の鉄パイプの径は、ただ径が異なるだけで良いと解さざるをえない(もっとも、実用新案登録請求の範囲の項の記載が不明瞭で、文言のとおりの解釈では考案の要旨が把握できない場合は、単にそれを文理解釈するだけでは不十分な場合もあるが、本願考案の明細書においては、その実用新案登録請求の範囲の文言は、記載のとおりに解釈できる表現になっている。)。

このように、本願考案は、その二種類の鉄パイプについて、まだ径を特定したものでなく、そのような考案において、二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値といっても、その「中間値」という表現に技術的意義は見出せない。

以上のとおり、原告の主張は不当であり、この点に関し、審決に原告主張のような違法はない。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因1ないし3の事実については、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取消すべき事由の有無について判断する。

1  取消事由(一)について

《証拠省略》によれば、引用例は、本願考案の出願前である昭和四五年一二月九日発行の意匠公報であり、意匠に係る物品を「建築足場用締付金具」とする原告出願の意匠を掲載したものであるが、そこには、建築足場用締付金具の正面図、背面図、平面図、底面図、左側面図、右側面図及び右側面図のA―A断面図が掲載されていることが明らかである。

そして、引用例における右側面図及び平面図(別紙図面(二)参照)と本願考案の明細書添附の図面第2図及び第3図とを対比すると、引用例にみられる「建築足場用締付金具」なる物品が本願考案の足場パイプ取付金具と同じく、建築足場を組立てる鉄パイプを固定するための取付金具であり、かつ、その構成も極めて類似していることが明らかである。

更に、右のような用途の取付金具として引用例の各図面をみるならば、引用例の取付金具の構成が次のとおりのものと理解できる(括弧内の算用数字は、対応する本願考案の構成部分を示す。)。すなわち、足場パイプは、型状の受台(1)、弧状の押板(4)及びボルト(10)で囲われた中央の円形状の空間部分(右側面図参照)の中に受入れられ、ボルトのナット(11)によって締付け固定されなければならないところ、まず、足場パイプを取付金具に受入れるために、引用例の取付金具では、ボルトと、ボルトを受入れる弧状の押板の上端にボルト挾持溝(7)を有するボルト挾持頭(6)とを設けて、押板とボルト部分とは係脱自在に結合できるようにしたうえ、型状の受台の下端と弧状の押板の下端とは押板連結杆(8)により、また、受台の上端のコ状のボルト支持枠とボルトの基部とはボルト連結杆(9)によって離脱しないよう枢着されている。

引用例の足場パイプ取付金具の構成がこのように理解される以上、本願考案と引用例記載のものとは、鉄パイプの円周曲率に関し審決指摘のとおりの相違があるにすぎない。

ところで、原告は、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各点が引用例には開示されていない旨主張するので、これらの点の構成について更に詳細に検討する。

((イ)の点について)

引用例の取付金具も型状の受台(右側面図)のA―A断面図から明らかなように二枚の側板(2)を受台の両側板とし、その両側板の下端に押板連結杆があることは前記のとおりであるところ、型状の受台と弧状の押板とが回動自在とされ、かつ、押板連結杆の両端は円弧状頭部となっている(平面図参照)ことからみれば、押板連結杆が両側板下端に貫通附設されていることは明らかである。

((ロ)の点について)

弧状の押板の上端にボルト挾持溝を有するボルト挾持頭を突設していることは、引用例の正面図にみられるように弧状の押板の上端がボルト受入れのために開放されていることを踏えて、右側面図及び平面図をみれば容易に理解されることである。

((ハ)の点について)

弧状の押板の下端は、押板連結杆によって型状の受台の下端に回動自在に連結されていることは前記のとおりであり、引用例の正面図をみれば、弧状の押板の下端は、回動軸である押板連結杆を包むように折返してあるのであるから、巻着してあるとみるのが当然である。

((ニ)の点について)

型状の受台の上端には、コ状のボルト支持枠(3)があり、これとボルトの基部とはボルト連結杆によって貫通枢着されていることは、型状の受台の上端とボルトの基部とを連結するものがボルト連結杆のみであり、この連結部材であるボルト連結杆の両端が円弧状頭部となっていることからしても明らかである。

右のとおりであるから、原告の指摘した各点の構成が引用例に開示されていない旨の原告の主張は理由がない。

なお、原告は引用例が意匠公報であるところから、同刊行物からは、物品の形状のもつ外観の装飾美のみが認識理解されるべきである旨主張するが、意匠に係る物品の通常の使用態様に則して意匠公報に掲載された図面をみ、そこに開示された物品の形状、構造又は組合せに係る技術的思想を認識理解するならば、引用例が意匠公報であっても、これが実用新案法第三条第一項第三号の刊行物となりうることはいうまでもない。

審決には、原告主張のような引用例についての認定の誤りはない。

2  取消事由(二)について

本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「側板2と押縁5の曲率を二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値となす」との記載があるものの、二種類の鉄パイプを特定する記載のないことは原告も認めるところである。

《証拠省略》を総合すると、現に使用されている足場用鉄パイプの規格径には四二・七ミリメートルと四八・六ミリメートルとの二種類があること、本願考案の明細書の考案の詳細な説明においても、取付金具の側板と押縁の曲率をこの二種類の径の中間径すなわち四五・六五ミリメートルの径と同一にすることが記載されていることが認められるが、本願考案の詳細な説明の記載からみると、本願考案に係る足場パイプの取付金具は、結局、各様の二種類の異径の鉄パイプの存在を前提として、取付金具の側板と押縁との曲率をそれらの中間値とすることによって、従来のごとく全面密着するものではないにしても、装着に際して接触面が極端に小さくならないから、側板と押縁による押圧効果の点も実用上支障がなく、異径のパイプに共通して使用できるものとした点に技術的特徴があるものと理解されるので、異径の足場用パイプが使用可能である以上、二種類の鉄パイプを原告の主張する特定のものに限定しなくても、実用新案登録請求の範囲の記載を十分に了解しうるものであり、かつ、考案の詳細な説明によっても、二種類の鉄パイプが原告の主張するごとき特定の径のものでなければならない技術的必然性があるとも認められない。

なお、本願考案の実用新案登録出願時において、鉄パイプの径が、原告主張のとおり、特定の二種類のものに限られており、これに関してのみ、実用新案登録を受けようとするものであるとすれば、たとえば、その「中間値」は、実用新案登録請求の範囲の項において、単に「中間値」とせず、たやすく疑義の生じない四五・六五ミリメートルとすることができたはずであり、これを妨げる事情もうかがえない。それにもかかわらず、これを、同項において、上述のとおり、広く「二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値」と規定したものである。

したがって、本願考案の詳細な説明における前記二種類の鉄パイプについての記述は、単に実施態様を例示したものと解するのほかはない。

そして、実用新案登録請求の範囲の記載において「二種類の鉄パイプ」が特定されたものと解しえない以上、「二種類の鉄パイプ円周曲率の中間値」についても、「中間値」なるものが格別技術的意義のあるものとして特定されているものと解することもできない。

右と同旨の審決の判断は正当であり、この点に関する原告主張は採用できない。

以上のとおりであるから、審決には、原告主張の違法はない。

三  よって、審決の違法を理由にその取消を求める本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荒木秀一 裁判官 舟本信光 舟橋定之)

<以下省略>

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